市場独占の7つの要素:中国版「新ゼロトゥワン」ピーター・ティール特別授業(第2回)

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「Zero to One(ゼロトゥワン)」の著者Peter Thiel(ピーター・ティール)による、清華大学特別授業「Startup Thinking」の紹介(第2回目)です。

授業の概要と序文は下記リンクから。

中国版「新ゼロトゥワン」ピーターティール特別授業(まとめ)
日本で2015年ビジネス書大賞を獲得した書籍「Zero to One(ゼロトゥワン)」の著者Peter Thiel(ピーター・ティール)が清...

前回分は

市場独占の方法:中国版「新ゼロトゥワン」ピーター・ティール特別授業(第1回)
「Zero to One(ゼロトゥワン)」の著者Peter Thiel(ピーター・ティール)による、清華大学特別授業「Startup Thi...

独占の7つの要素(Elements of Monopoly)

私はカリフォルニアでNo.1チェスプレイヤーの称号を持っていたため、チェスとビジネスの関係についてよく質問を受けます。そこまで明確な関係があるわけではありませんが、あえて言うならば、チェスでは先手の白がかなり有利で、ビジネスでも先行者利益が大事とよく言われます。しかし、より大事な点は、チェスでもビジネスでも最後が重要ということです。チェスチャンピオンのCapablanca「もしチェスチャンピオンになりたいならば、他の何よりも先にゲームの最終局面を勉強しなければいけない」と言っています。

ビジネスでも同じで、先行者利益(First Mover Advantage)を追い求めるよりも、最終局面を制する(Last Mover Advantage)ことが重要です。Googleは最後の検索エンジン、Facebookは最後のSNS、PayPalは最後のオンライン決済会社で、既に独占を確立しています。

またもう一つ重要な事は時間的な概念、つまり独占がどの時代に、どの程度続いたかということです。非常に大きな独占を獲得しても、それが半年しか続かないのであれば大した価値はありません。10年、20年以上続くことのほうが価値があると言えるでしょう。今日は独占の7つの要素について話しをしたいと思いますが、この時間的な概念については常に頭に置いといてください。また、ここであげる7つの要素は全てが揃っていないといけないというものではありません。7つのうち1つでもあれば、独占を築くには十分でしょう。

技術(Technology)

最も基本的な独占の要素は技術です。

もし技術を有していれば、人より優位に立てるでしょう。しかしその技術が他人よりも少しだけ優れているだけでは不十分です。科学の世界は競争が熾烈なので、従来よりも少しだけよい技術というのはどんどん発明されていきます。私の経験則でいうと、あるビジネスを独占するためには、なんらかの基準において、他より10倍以上優れている必要があります。例えば、Amazonは他の書店に比べて10倍以上の書籍を揃えていました。一方で最近のアメリカのクリーンテクノロジーのトップ企業は、2番手に比べて、せいぜい3〜5%よい程度でした。科学にとって5%の改善は重要なことですが、ビジネスにとって5%程度の改善では注目を集めるには不十分です。

ネットワーク効果(Network Effect)

2番目の要素はネットワーク効果、ユーザが多ければ多いほど、製品やサービスの価値が高まるということです。

しかし、ビジネスの最初はユーザの数は多くありません。重要なのはどのようにネットワーク効果を得るためのユーザを集めるかということです。キーとなるのは前回も話したとおり、小さく始めるということです。

Facebookはハーバード大学の1万人の学生に限定したところから始めて、大学内でのネットワーク効果を獲得しました。 私がPayPalを創業したときも、それは常にネットワーク効果との戦いでした。決済システムは、送金側と受け取り側の両方が利用するからこそ価値があります。VISAやMaster Cardがアメリカでビジネスを始めた時も簡単ではありませんでした、店舗にクレジットカードマシーンを設置してもらう必要があったため、彼らは南カリフォルニアから小さく始めて、10年かけてようやくネットワーク効果を獲得しました。PayPalの課題もネットワーク効果をどのように得るかでした。ネットワーク効果は、1人目のユーザにとって価値はありません。10番目でも100番目のユーザでも同様です。100万人目のユーザなら価値はありそうだけど、そんなにたくさんの人を集めることは不可能でした。そこで考えついたのはEメールを使うことです。当時は、既に3億のEメールアドレスが存在しており、Eメールには十分なネットワーク効果が存在していたからです。送金側と受け取り側の両方がPayPalを使っていなかったとしても、Eメールアドレスを持っていさえすれば、PayPalで決済ができるようにしたのです。つまり、送金側の片方のみでネットワーク効果を得ることができたのです。

規模の経済(Economies of Scale)

3つ目の要素は規模の経済です。

規模があればコストを下げることができ、それは非常に価値があるものです。例えば、Amazonは規模の経済を利用した会社です。奇妙なのは1995年に創業してから20年以上、ほとんど利益をあげていません。彼らは稼いだお金のほとんどを規模拡大に費やしているのです。まず規模を極限まで大きくする、それから全てのライバルを追い払う、その後、ようやく莫大な利益を得ることができる。それがAmazonが長期的に考える利益獲得の方法なのです。

もしあなたが規模の経済にフォーカスするならば、最初は利益のことは考えないほうが良いです。PayPalも最初は多くの損失を出しましたが、世界を制した後は利益を出すことができています。中国でも同じような例があります。当初、eBayは中国市場で大きく先行していましたが、途中でアリババに追いつかれ、最後は敗北します。それは、eBayが手数料を取るのが早すぎたからです。一方でアリババは全てを無料で提供し、規模の経済を得るために拡大を続けたのです。

販売(Distribution)

4番目の要素は販売で、営業、マーケティング、口コミなどの色々なチャネルがあります。

「技術」と「その技術の販売」の組み合わせはビジネスにとって重要です。だからこそ、シリコンバレーでは、1人は技術、もう1人はビジネス(販売)を担当する、2人の創業者からなるスタートアップが多いです。しかし人はみな技術を重視しがちで、いい製品があれば自動的に売れると思っており、販売は過小評価されています。しかしもし販売チャネルの問題を解決したならば、それは非常に価値のあることです。なぜなら、一度、販売チャネルを確立してしまえば、競合がコピーするのが難しくなるからです。技術がコピー出来ないのではありません、販売チャネルがコピーできないのです。WhatsAppやTwitterの技術は他社が真似ができないものではありませんが、彼らは他社が真似ができないほど早く製品を広めています。

もしあなたが優れた技術者であるならば、自分の技術が他人よりも優れていることを主張する必要があるでしょう。しかし、もしあなたが優秀な営業担当者であるならば、自分の営業力が高いとは言わないはずです。なぜなら、営業力が高くて製品が売れていると言う主張は、製品が良くないと暗に言っているようなものなのです。

ブランド(Brand)

5つ目はブランドです。

アメリカの古典的例ですが、コカ・コーラとペプシコーラのテイスティング実験があります。目隠しをして2種類のコーラを飲んだ時は、被験者はどちらのコーラを飲んだか判別することができないのに、ロゴを見て飲むと好みが分かれます。中身には大差はなく、彼らはブランドイメージに侵されているのです。しかし実のところ、私はブランドをどのように創りあげるかわかりませんし、ブランドが何かもきちんと理解していません。ブランドからビジネスを始めるのは非常に難しく、ブランドとは非常にミステリアスなものです。「みんなが欲しいものは他のみんなが欲しいもの」これがブランドの奇妙な特徴です。

複合的に組み合わせる(Complex Coordination)

「Zero to One」には書きませんでしたが、Complex Coordinationも非常に重要な要素です。

これは特別な技術、ネットワーク効果、規模の経済などとは違い、既存のモノを特別な方法で組み合わせて新しいモノを生み出すということです。既存のモノを組み合わせて新しい製品を作るということは思ったよりも難しいことで、あまり成功している人はいません。これはシリコンバレーでは最も過小評価されている要素で、それゆえに私が最も気にかけていることでもあります。

Appleといえば、ブランド価値に目がいきがちですが、Appleの強みは、実はComplex Coordinationにあります。iPhoneには実は革新的な技術は一つもありません。彼らは小さな技術を正しく組み立てることで、スマートフォンを創りあげたのです。私のPayPalでの同僚イーロン・マスクが創業したテスラモーターズ、スペースXの成功も、キーとなるのはComplex Coordinationだと考えています。テスラとスペースXには1社のサプライヤーのみが製造・供給している部品は買わないというルールがあります。なぜなら、そのような場合は交渉力のバランスが悪くなるからです。コモディティ化されてみんなが作っているような部品は喜んで買いますが、そうでない場合は自社でその部品を製造するようにしています。

政府(Government)

そしてもちろん、政府も独占には非常に重要な役割を果たします。

例えばアメリカではタクシーを運営するにもライセンスが必要です。2007年に、ニューヨークのタクシーのメダリオン(タクシーの運営権)は100万ドルはしました。政府は1937年以降、新しいメダリオンを発行していないため、供給不足のニューヨークタクシーは非常に価値があったし、1926年以降、新しいメダリオンを発行していないパリでは、メダリオンはもっと大きな価値がありました。しかし、Uberがハイヤー業としてタクシー業と同等の価値をもたらした時、パリでは大きなデモが起きました。Uberは正規のメダリオンホルダーの権利を侵害している、政府はUberを規制すべきだと。この欧米のタクシーの政府規制の混乱はDidiなどのタクシー配車サービスが展開されている中国よりもずっと大きなものです。

独占には、良い独占と悪い独占があります。良い独占というものは、イノベーションによって創られます。リスクがあるとすると、他の誰かの独占や権益を壊してしまうことがあるということです。  

以上が独占の7つの要素です。

ここで、中国の話しをしましょう。

続く(かも・・・)  

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  1. らてーの より:

    いい記事です
    独占について勉強しているので
    グッジョブです